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高知地方裁判所 昭和49年(行ウ)1号 判決

原告 久保孝二

原告 野村進

右両名訴訟代理人弁護士 横田聰

被告 高知市教育委員会

右代表者委員長 山本準一

被告 高知市

右代表者市長 坂本昭

右両名訴訟代理人弁護士 中平博文

同 戸梶大造

主文

一、原告久保孝二に対し被告高知市教育委員会が昭和四八年一二月一四日にした高知市青年センター運営委員解嘱処分、及び高知市公民館運営審議会委員解嘱処分を取り消す。

二、原告野村進に対し被告高知市教育委員会が昭和四八年一二月一四日にした高知市青年センター運営委員解嘱処分を取り消す。

三、被告高知市は、原告久保孝二に対し一五万円、原告野村進に対し一〇万円、及びこれらに対し昭和四九年二月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四、原告らの被告高知市に対するその余の請求をいずれも棄却する。

五、訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

事実

第一双方の申立

(原告ら)

主文一、二項同旨。

被告高知市は原告久保孝二に対し二〇万円、原告野村進に対し一五万円、及びこれらに対し本件訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払え。

(被告ら)

請求棄却。

第二双方の主張

(請求の原因)

一  被告高知市教育委員会に対する請求

(一) 原告久保孝二は、被告高知市教育委員会(以下被告委員会と略称する)により、昭和四八年五月一八日、高知市公民館運営審議会委員を、同年八月一日高知市青年センター運営委員を委嘱され、その任にあった者、原告野村進は、昭和四八年八月一日高知市青年センター運営委員を委嘱され、その任にあった者である。

(二) 右公民館運営審議会委員は、社会教育法二九条により設置される委員会の委員として、同法三〇条に基づき委嘱されるもので、その任期は、高知市立公民館条例五条により、二年とされていた。

また、青年センター運営委員は、被告高知市の高知市青年センター条例一七条により、被告委員会の附属機関として設置された委員会の委員として委嘱されるもので、その任期は条例施行規則一三条により、二年であった。

(三) ところが被告委員会は原告らに対し、突然、主文一、二項記載のとおり、前記各委員を解嘱する旨の処分をし、同日原告らに通知してきた。

(四) しかしながら右各処分は左の理由により違法である。

1 本件解嘱処分には法的根拠がない。

2 解嘱処分をするには心身の故障によりその職にたえない場合等正当な事由を必要とすると解すべきであるところ、本件解嘱処分には何ら正当な事由がない。むしろ、本件解嘱処分は、原告らの思想信条を理由とする差別である。また、多くの委員(当時の公民館運営審議会委員は原告を含め一二名、青年センター運営委員は同じく一〇名であった)の中から、原告らのみを選んで解嘱したことは公平の原則に反し、何れも憲法に違反する。

よって本件各処分の取消しを求める。

二  被告高知市に対する請求

(一) 被告委員会は、被告高知市(以下被告市と略称する)の機関であって、前記委員会による解嘱決定の違法は、すなわち構成員である委員の職務執行についての違法行為として、国家賠償法一条により、被告市がその賠償の責に任ずべきものである。

(二) 原告両名は、数年来高知市の青年をもって組織する高知市青年グループ(以下青年グループと略称する)及び高知市青年団協議会(以下市青協と略称する)の有力な指導者として、青年層の信望が厚く、かつ、原告久保はその勤務先である高知機型工業株式会社の検査主任であるかたわら、従業員をもって組織する労働組合の前委員長、原告野村は勤務先の鈴江農機労働組合の副委員長、高知地方同盟青年婦人協議会議長等の役職にあり、同僚間の信頼を得ている者である。従って、原告両名は本件解嘱処分により、著しくその名誉を害されたものであって、その精神的損害は、原告久保において二〇万円、原告野村において一五万円に相当する。

よって被告市に対し、右精神的損害の慰謝料として、前記金額及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告らの答弁)

一  請求原因一(一)(二)(三)の事実は認めるが、(四)の事実は争う。

二  請求原因二(一)のうち被告委員会が被告市の機関であること、同(二)のうち原告らがかつて青年グループ及び市青協の指導者であったこと、原告らの勤務先がその主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は争う。

(被告らの主張)

一  本件解嘱処分は市青協の推せん取消しに基づく適法な処分である。

(一)(イ) 被告委員会は社会教育法五条三号により公民館を、また同条四号により青年の家(被告委員会においては、これを高知市青年センターと称している)を設置し、その運営に当っているが、公民館の運営については、同法二九条一項に基づき、公民館運営審議会を設け、審議会委員については同法三〇条に基づき、これを委嘱し、その細則として高知市立公民館条例(昭和四三年条例第三七号)を設け、同条例五条二項において審議会委員の定数を一二名以内と定めるとともに、同条三項においてその任期を二年と定めている、委員の選考基準については社会教育法三〇条一項各号に定めるところであるが、被告委員会は市青協をもって、同項二号の教育に関する団体と認め同条二項により、右協議会の推せんをまって委員一名を委嘱していた。

また、高知市青年センターの設置運営については、社会教育法には公民館運営審議会のような規定は設けていないが、前記の各条項に準じ、被告市は高知市青年センター条例(昭和四六年条例第六号)を設け、その一七条において、高知市青年センター運営委員会を置くこととし、更にその細則として被告委員会は高知市青年センター条例施行規則(教育委員会規則第五号)を定め、その一二条において、運営委員会の定数を一〇名以内と定めるとともに、一三条においてその任期を二年と定めている。

(ロ) 更に右委員の選考の基準については、公民館運営審議会委員に関する社会教育法三〇条に準じ、昭和四六年七月二八日開催の教育委員会の議決により、内規として団体推せんにより委嘱する委員を五名とし、そのうち、高知市議会の推せんする者二名、利用青年の代表として市青協の推せんする者三名と定め、別に学識経験者の中より選考により委嘱する委員を五名と定めている。

(二) 以上により原告久保は、市青協の推せんをうけ、同原告の主張する日時に被告委員会は、公民館運営審議会委員及び高知市青年センター運営委員会委員にそれぞれ委嘱し、また、原告野村も同様推せんをうけ、同原告の主張する日時に、被告委員会が高知市青年センター運営委員会委員に委嘱していたものである。

(三) しかるに、市青協は、昭和四八年一一月一日原告久保について、公民館運営審議会委員の推せんを取り消すとともに、同年一〇月二四日、原告両名の高知市青年センター運営委員会委員の推せんを取り消し、更に同年一一月一日後任の公民館運営審議会委員一名を、また、同日後任の高知市青年センター運営委員会委員二名を推せんした。

よって、被告委員会は、昭和四八年一二月一四日社会教育法三〇条二項に基づき、原告久保の公民館運営審議会委員の委嘱を解き、推せんを受けた後任者をこれに委嘱するとともに、同日前記被告委員会の定めた内規に基づき、原告両名の高知市青年センター運営委員会委員の委嘱を解き、推せんをうけた後任者二名をこれに委嘱した。

(四) 公民館運営審議会委員については、前記社会教育法三〇条二項により「委員の委嘱は……推せんされた者について行うものとする」と定められているから、右推せんを取り消され、後任者が推せんされた以上、前任者は委嘱の前提条件を法的に欠くことになり、被告委員会は原告久保を法律上解嘱する義務を負うに至ったものであるから、同原告に対する前記解嘱処分は何ら違法でなく、法律に基づく正当な処分といわなければならない。

また、高知市青年センター運営委員会委員の選考基準については、社会教育法三〇条二項のような法的規定はないが、右規定に準じ、前記のとおり被告委員会の内規を定めているものであって、右内規に定める推せんを取り消され、後任者が推せんされた以上、被告委員会としては、原告両名の委嘱を解いた上、推せんされた後任者に委嘱せざるを得ないものであり、原告両名の委嘱を解いた被告委員会の処分は全く妥当であって何らの違法はない。

二  仮りに、右の主張が理由がないとしても、被告委員会は原告らが委員としてふさわしくないと認めて本件解嘱処分をしたものであり、その処分は極めて妥当であって、違法と非難される理由は全くない。

原告らが委嘱された委員は地方公務員法三条三項二号に定める特別職の地方公務員であって同法四条二項により法律に特別の定めがある場合を除くほか同法の適用を排除されており、従ってその任免については、一般職の公務員の場合に比べて任命権者のより一層の広汎な裁量権が認められており、その処分が社会通念に照らして著しく妥当性を欠き明らかに裁量権の範囲をこえる場合を除き本来司法審査になじまないものである。

被告委員会が、原告らを審議会委員又は運営委員会委員から解嘱した経過及びその実質的理由は左のとおりである。

(一) 被告委員会が、市青協の推せんをまって、前記の各委員を委嘱することとした趣旨は、これらの施設を利用する青年の意思を、その管理運営をするに当って十分に反映させるのが適当であるとの判断に基づくものであるが、右の市青協が原告らの推せんを取り消してきたこと、及び取り消すに至った事情から前記の趣旨に照らし原告らがこれ等の施設を利用する青年を代表し、その総意を運営審議会又は運営委員会に反映させる委員として適当でないとの判断に基づき解嘱したものであって、右解嘱処分は後記の事情に照らせば決して裁量権の範囲を逸脱するものではなく、極めて妥当かつ適正な処分といわざるを得ない。

(二) 市青協は、高知市に住所を有する年令一五歳以上三〇歳未満の青年で、地域職域等を基礎として結成された青年団体が集まって組織する青年団体の連合体であって、会則に基づき役員会議会計その他の事項を定めて、その運営に当り、高知市内における組織的な青年団活動の中核的存在であり、昭和四八年四月一日当時市青協加入の青年団体として被告委員会に登録されていた青年団は一三団体、会員数は四一七名であり、原告らは市青協の加入団体である青年グループの会員であったものである。

(三) ところで、運営委員会委員のうち五名は学識経験者をもってあてることとし、そのうち一名は過去において青年団活動を経験し、これに精通している者でその経験に基づく適切な助言及び青年の社会教育に対する協力が十分期待できるものをあてることとしていたが、右の資格で第一期の委員となった小野山敬一が仕事の都合上再任が困難となったところから後任者を選任する必要に迫られていたところ、市青協及びOB会(過去において青年団活動を経験した先輩の会)が右の委員として森武彦を推せんして来たが、右の委員は学識経験者としての委員であり、団体推せんに基づく委員ではないから、右の推せんに拘束されるものでないとして被告委員会は独自にせんこうし、岡本康彦を右の委員として委嘱し、同人もこれを受諾したところ、推せんを無視されたとする市青協及びOB会と被告委員会との間に意見の対立を来たし、昭和四八年八月八日ごろから双方の間において、度々会合が持たれたが、結局同月二七日ごろ両者の話合いがつき、被告委員会の岡本委員への委嘱について、市青協等もこれを了解するに至った。

(四) 右の話合いに当っても、市青協はあくまでも青年センターの運営に積極的に協力するとの方針のもとに円満な話合いに努めて来たが、同月九日、一〇日の二日間にわたり「青年センターを明るくする会」(以下「明るくする会」と略称する)の名称のもとに、岡本委員を解嘱し、森武彦を委員に委嘱せよとの要求及び今回の人事は青年センター所長及び係長が人事を私物化し、利用青年の意思を無視したものであり、右両名を追放すべきである等と同人らを個人的に中傷非難するビラを高知市役所、市長自宅、青年センター及び所長係長らの自宅付近に多数掲示するとともに、岡本委員に対し圧力を加えて解職を迫る等の動きが見られるに至った。この様な過激な行動は、あくまでも円満な話合いによって青年センターの運営に協力するとの方針を貫ぬいて来た市青協の大多数の会員の意向を全く無視し、青年センターの運営についていたずらに市民の疑惑を招き、健全な青年団活動をかえって阻害するものであるとして、市青協の多数の会員の中から、事態の真相を調査し、万一市青協加入の団体又は会員等で右の「明るくする会」の前記行動に参加し、又はこれを支持しているものがあれば、市青協の方針と全く相反するものであるから総会の決議により処分すべきであるとの声が起るに至った。

(五) そこで、昭和四八年九月七日の臨時総会において、団長会(所属団体の会長の会)において右の件を調査すること、及びその調査の結果万一会員の中に「明るくする会」に参加したものがあり、また、その所属団体もこれに参加するか又は参加した会員の行動を是認支持し、市青協の前記基本方針に相反する態度であることが明らかとなったときは、団体として除名処分を受けても止むを得ないとの結論に達し、右決議に基づいて調査した結果が同月二八日の臨時総会において報告されたところ、原告二名が「明るくする会」の前記行動に参加しかつ岡本委員の解職を要求していたと認定せられ、また、原告二名の所属する青年グループも団体としてこれに参加していた疑いが極めて濃厚であるとの結論に達し、しかも青年グループは「明るくする会」の行動を是認し、これを支持するとの態度を表明するに至ったので、前記申し合せに基づき多数意見をもって、青年グループを除名するとの決議が可決された。

(六) そこで、市青協は運営審議会委員又は運営委員会委員として、原告両名は、市青協所属の青年の意思を代表し、その総意を反映する委員としてはいずれもふさわしくないものとして前記のとおり、被告委員会に対しその推せんの取り消しをして来たものである。

(七) 以上の事情により、被告委員会が原告両名を運営審議会委員又は運営委員会委員から解嘱した処分が適正かつ妥当であることは明らかである、すなわち

原告両名は、岡本委員の委嘱に関しこれを不満として市青協の前記基本方針に反し、「明るくする会」の前記のような過激な行動に参加し、更にこれを積極的に是認かつ支持するとの態度を表明し、いたずらに青年センターの運営について市民の疑惑を招き青年団活動を阻害するような行動をとって来たこと

右の結果、市青協においてその所属する青年グループが除名処分を受け、原告両名も市青協において、市青協所属の会員を代表し、その総意を運営審議会又は運営委員会に反映させる委員としてふさわしくないものとみなされ、右の趣旨に基づき市青協がその推せんを取り消して来たこと

被告委員会も前項の市青協の推せん取り消しの趣旨については全く見解を同じくするものであり、そのうえ本来公正中立であるべき委員が社会教育法二九条二項の運営審議会委員の職務又は高知市青年センター条例施行規則一二条二項の職務の範囲を越え運営委員会委員及び青年センターの職員の人事に直接介入し、被告委員会のとった措置を不満として前記のような過激な行動に走り、そのうえ実力をもってこれを変更させようとするようなことは、全く前記委員会の委員の任務を逸脱し運営審議会及び運営委員会の円滑な運営を著しく阻害し、ひいては被告委員会の公民館及び青年センターの運営に重大な支障を生ぜしめるものであること

等を理由に被告委員会は原告両名は、運営審議会委員又は運営委員会委員としてふさわしくないものと認め、解嘱したものであって、前記の各事実は解嘱の理由として相当であり、解嘱処分は被告委員会の人事権に基づきその裁量の範囲において極めて適正になされたものであり、憲法違反の人事権乱用として非難される理由は少しも存しないものである。

≪以下事実省略≫

理由

一(一)  次の事実は当事者間に争いがない。

原告久保は被告委員会により昭和四八年五月一八日高知市公民館運営審議会委員を、同年八月一日高知市青年センター運営委員を、それぞれ委嘱され、原告野村は同年八月一日高知市青年センター運営委員を委嘱されたこと

右公民館運営審議会は、被告委員会が社会教育法五条三号により設置した公民館の運営のため同法二九条一項に基づき設けたもので、審議会委員について被告委員会は、高知市立公民館条例五条二項により定数を一二名以内とし、そのうち一名については社会教育法三〇条に基づき市青協をもって同条一項二号の教育に関する団体と認め、同条二項によりその推せんにより委嘱していたが、その任期は前記条例五条三項により二年とされていたこと

高知市青年センターは被告委員会が社会教育法五条四号により青年の家として設置したもので、その運営について同法には規定はないが、前記各条項に準じ、被告市は高知市青年センター条例を設け、その一七条において高知市青年センター運営委員会を置くこととし、被告委員会は、高知市青年センター条例施行規則一二条一項により委員の定数を一〇名以内とするとともに一三条によりその任期を二年と定めているが、そのうち三名の委員については社会教育法三〇条に準じ内規として利用青年の代表として市青協の推せんにより委嘱していたこと

原告らは以上により各委員を委嘱されていたものであること

被告委員会は、昭和四八年一二月一四日原告らに対し前記各委員を解嘱する旨の処分をし、原告らに通知したこと

(二)  ≪証拠省略≫によれば次の事実が認められる。

市青協が被告委員会に対し、昭和四八年一〇月二四日原告両名の高知市青年センター運営委員会委員の推せんを取り消し、同年一一月一日には更に原告久保について公民館運営審議会委員の推せんをも取り消したこと

これを理由として被告委員会が原告らに対し前記解嘱処分をしたこと

(三)  被告らは市青協の推せん取消しにより被告委員会は解嘱義務を負うに至る旨を主張するが、社会教育法三〇条二項は委員委嘱の際の前提条件を定めたにすぎないものであるから、委員が個人として委嘱された後に推せんが取り消されたからといって、委員の地位には何の影響も生ずべきではない。更にいえば、委員が推せんによって委員に委嘱された後になって、その推せんを取り消すようなことは、そもそもできないというべきものであろう。このことは被告委員会の内規の解釈についても同様である。

被告らの第一次的主張は理由がない。

二(一)  被告らは第二次的に、原告らが本件各委員としてふさわしくないものと認めて解嘱したと主張する。

本件各委員の解嘱事由については何らの規定がない。

しかし、だからといって、解嘱は被告委員会の裁量に任されていると解すべきではなく、委員が安んじて職務にあたることができるために、解嘱をやむをえないとする相当な事由―その事由にがい当するかどうかの判断については相当な範囲の裁量が認められるとしても―が必要であると解すべきである。

右にいう相当な事由とは、(イ)心身の故障のため職務の遂行にたえないと認められる場合(地方教育行政の組織及び運営に関する法律七条一項参照)、(ロ)職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認められる場合(前同条参照)、(ハ)委員に必要な適格性を欠く場合(地方公務員法二八条一項参照)、(ニ)その他これに準ずる事由のある場合をいうと解するが、被告らの主張は(ロ)(ハ)(ニ)の事由を主張することになろう。

そこで、以下に原告らが本件各委員としてふさわしくないものと認められるか否かについて判断することとする。

(二)  ≪証拠省略≫によれば、被告委員会はこの点について独自の調査を全くしていないが、市青協から、原告らの所属する青年グループが除名され、原告らが推せんの取消しをされるに至った経緯については、被告らの主張二の(二)ないし(六)のとおり認められる(このうち以下の事実については当事者間に争いがない。市青協は高知市に住所を有する年令一五才以上三〇才未満の青年で地域職域等を基礎として結成された青年団体が集って組織する青年団体の協議体であること、原告らは市青協加入の青年グループの会員であったこと、高知市青年センター運営委員会の委員のうち一名は過去において青年団活動を経験しこれに精通している者をあてることにしており、その第一期委員小野山敬一の後任者として市青協及びOB会が森武彦を推せんしたが、被告委員会が同人でなく岡本康彦を委嘱したことから市青協及びOB会と被告委員会との間に意見の対立を来たし、昭和四八年八月八日ごろから双方の間において度々会合がもたれたこと、同年九月七日及び二八日の両日市青協の臨時総会が開かれ二八日の総会で青年グループ除名の決議がなされたこと。)。

しかしながら、原告らが激しい分派活動をした「明るくする会」の行動に参加したと認めるに足りる証拠は全くない(≪証拠省略≫中被告らの主張にそう部分は原告らの当時の片言隻句をとらえて大胆な推断を下すもので、≪証拠省略≫と対比すれば到底採用するに値いしない)。

また、原告らが岡本委員の委嘱に不満であったことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、この点について、原告らには、森武彦が岡本委員宅へ辞任を求めに行った際同行した(他に市青協の横田事務局長及び東崎組織部長も同行した)こと等多少の批判的言動のあったことが認められるが、原告ら市青協側としては従来の経緯から第一期の小野山委員の場合と同様OB会の推せんする森が委嘱されると信じていたのであって、この点について原告らが批判的態度をとったことはうなづけるし、その言動も決して度を過したものとは認められない。

なお、原告らが青年グループ及び市青協の指導者であったことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば昭和四八年終りごろにおける青年センター登録の青年団体数は一〇〇余、その会員数は約三〇〇〇人、これと別に個人登録が二〇〇〇名位あり市青協はごく一部をしめるにすぎないこと、青年グループは、高知市における青年団の中核的存在で当時の会員数は約一〇〇名であったこと、また、原告らは青年グループの一員として市青協除名後も青年センター等を利用し活発な活動を続けていることが認められる。

(三)  以上のとおりであって、被告らが主張するように原告らが本件両「施設を利用する青年を代表し、その総意を運営審議会又は運営委員会に反映させる委員として適当でない」とは到底認めることはできない。被告委員会の裁量権を考慮しても、解嘱を相当とする事由は全く存在しないというべきである。

三  従って、被告委員会の原告らに対する解嘱処分は違法であり、取消しを免れない。

四  被告委員会が被告市の機関であることは当事者間に争いがないから、被告市は被告委員会委員の職務執行についての過失(前記経緯から明らかである)による違法行為に基づく損害賠償責任がある。

原告らは高知市における青年団活動の指導的地位にあったところ、全く理由なく解嘱されたこと、その他諸般の事情を考慮して、原告らの受けた精神的損害は原告久保一五万円、原告野村一〇万円と認めるのが相当である。

従って、被告市は原告らに対して右金員及びこれらに対する本件訴状送達の翌日である昭和四九年二月二四日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

五  よって、原告らの請求は右の限度で理由があるので認容し、被告市に対するその余の請求をいずれも棄却し、なお訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下村幸雄 裁判官 高橋水枝 荒川昂)

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